5/4 タイトル 奈良公園

奈良公園には、家から近いのでよく行くのですが
公衆トイレの横にいつも一人のおじいさんが座ってるんです
座りながら鹿に餌をあげる、トイレへ立つ、餌をやる、トイレ、餌。
どうやらその繰り返しで、いったいこのおじいさんは何者だろうかと
公園を訪れる度に考えていたんです。
でもまあ、公園だとかの類の場所には、そういうよく分からない人はつきものですから
とくに気にも留めてはいなかったのです。
それである日、公園を訪れたら、偶然にも公衆トイレでおじいさんの横に並ぶことに
なりまして、そこからいろいろおじいさんと話しをして、知り合いになりました。
おじいさんはずいぶん昔から奈良公園へ通っているそうで、いろいろと教えていただきました。
ここの鹿は蟻を食べてるとか、この公園の地下50メートルには巨大な迷路があって
今はもう閉鎖されて誰も入れないとか。
おじいさんの話しの中で一番驚いたのは、おじいさんの息子さんが
その巨大な迷路の中で迷ったまま迷路は閉鎖されてしまったということでした。
可哀想と云うか何というか、不気味な気持ちになりました。
なんでもトイレの横にいる理由は、そこにいると、息子さんの声が地面から聞こえてくる
からだそうです。
おじいさんは元々、有名な大学の教授だったそうで、ボケている感じは無いのですが、
鹿に餌をやるおじいさんのしわがれた腕からは悲しみが否応なしに伝わってきます。